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               第1話・竹千代





竹千代とさくら


  我が家に、猫が同居するようになった歴
史は、比較的長い。20年ほど前の、ある
寒い夜、当時住んでいた14階建ての公団
住宅の13階の我が部屋に、1匹のシャム
猫が迷い込んだ。名前を「チャップ」とつ
けて、飼いだした。この「チャップ」が、
同居猫第1号である。数ヵ月後、訳ありで、
友人に預ける事になったが、更に数ヵ月後
その友人の棲家から忽然と、姿を消した。
シャム猫特有の、お喋りな仔であった。
以後、同居者としての猫の存在を欠くこと
がない我が家となった。
残念ながら、この仔の写真は1枚もない。

 我が家に、本格的に猫が同居するように
なったのは、「竹千代」との歴史的出会い
からである。
「竹千代」を連れてきたのは、「チャップ」
を預けた友人であった。「チャップ」失踪
から1年後の、8月1日の深夜、暗い野原
の真中の、小さな箱に入れられて鳴いてい
たらしい。臍の緒が着いたままの、80g
の男の仔であった。生後間もない、赤ちゃ
ん猫など、育てた事などない我々は、ミル
クを飲んだと言っては喜び、便が出ないと
言っては騒いでいた。元来、強運の下に生
まれて来たこの猫は、そんな我々の下でも
すくすくと成長してくれた。



竹千代




竹千代


  赤ちゃん猫を、無事成長させたノウハウ
は、その後のジジや舞を育てる時の、礎と
なっている。その後、我が家に同居するよ
うになった猫は「さくら」という、女の仔
であるが、その「さくら」が来るまでは、
「竹千代」は、自分を人間と思っていた様
であり、誠に気の強い男らしい猫であった。
この仔の気の強さは尋常ではなく、幾つか
のエピソードがある。2、3紹介したい。
ある日、当時住んでいた14階建ての公団
住宅の13階の我が部屋から、「竹千代」
が消えた。慌てて探すと、はるか下でうず
くまるそれらしき影・・・。落ちていた。

 しかし、気丈なこの猫は、1メートルば
かりある隣棟との間を、壁に沿って飛び移
りながら落ちていったらしく、4本の足の
骨が見えるほどの怪我をしながら、軟着陸
し、一命をとりとめた。またある時は、某
放送局受信料契約請負人の来訪を、玄関先
で待ち受け、今にも飛び掛らんばかりに唸
り脅して、みごと、逃げ帰らせた。ダスキ
ンの勧誘のおばさんは、今一歩のところで
噛み付かれそうになった。事実、襲われて
怪我をした私の友人は、複数にのぼる。
「竹千代」が怪我をしたことがきっかけで、
高所から、地べたに引越しをしたが、その
新天地ですら、付近を瞬く間に制圧した。



竹千代




竹千代


  その地の大ボスに上り詰めたのはいいが、
体中生傷の絶えることはなかった。しかし、
自分を慕って寄って来る子猫には、大変に
優しかった。「さくら」「ひとみ」「蛍」
「ポー」「タンゴ」「森太」・・・、これ
ら「竹千代」の後に我が家に来たすべての
仔達は、等しく彼の愛情に包まれていた。
大ボス「竹千代」の最後は、実にみごとな
ものであった。老衰の為、フラフラな足を
引きずって、最後の見回りを済ませると、
翌日からは急激に衰え、翌々日に息を引き
取った。臍の緒が付いたままの、80gの
男の仔の14年強に渡る一生の幕切れは、
見事としか言いようの無い潔さであった。


         プロフィール

   生年月日:昭和60年8月1日       
   名 前:竹千代(♂)
   愛 称:チー
   出生地:栃木県壬生町原っぱ箱の中
   好 物:チーかま、ラーメン
   嫌 物:掃除機の音
   性 格:凶暴、やさしい
   特 技:お座り、お手、ハイジャンプ
   持 病:クラミジヤ、膀胱結石
   怪我歴:尻尾骨折、すだれ耳、生傷
   体 重:5Kg(ピーク時)
   享 年:14歳4ヶ月
  



竹千代

第2話へ続く