第3話・ひとみ





竹千代とひとみ


  我が家に、猫が同居するようになった2
0年ほどの歴史の中で、その数は12匹を
かぞえる。現在の同居数は3匹である。
ある仔は、交通事故で短い一生を終えた。
ある仔は、3ヶ月足らずで病死した。家を
出て行った仔もいたし、生まれつきのネコ
白血病の為、3年と生きれなかった仔もい
た。これら12匹の仔達は、1匹を除いて
全て、捨てられていた仔達であった。
「ひとみ」・・・この仔だけが例外的に、
貰われてきた女の仔であった。母親をチン
チラとする、雑種であるが、長毛種の性格
を持った実に気高い、気品を備えたネコで
あった。

 「竹千代」が怪我をしたことがきっかけ
で、高所から、地べたに引越しをした事は、
前述したが、「竹千代」も「さくら」も新
しい家に慣れ、落ち着いていた。
そんな折、チンチラの仔が生まれたとの話
を聞いた。この仔の持ち主は、ダンスを通
じての知り合いであったので、しばらく子
猫と遠ざかっていた私は、無性に欲しくな
り、1匹頂く事にした。瞳の蒼さが妙に印
象的な可愛い仔であった。その印象そのま
まに「ひとみ」と名付けた。
ミルク、肉系の食べ物が大好きなこの仔は、
牛乳、チーズ、アイスクリーム、生肉など
を特に好んで食べた。



ひとみ




ひとみ


  「ひとみ」の気位の高さは、その行動に
見て取れ、彼女の後に、我が家に同居した
ネコ達との接し方は、正に孤高と呼ぶにふ
さわしいものであった。「ひとみ」に近づ
こうとする、どのネコをもこの仔は拒否の
唸り声を発した。ただ唯一の例外は「竹千
代」であった。「ひとみ」は大ボス「竹千
代」に甘え、怒られ、愛されて育ってきた。
ネコ同士は寒い時、互いの体を寄せ合って
眠る習性がある。親兄弟なら、なおのこと
この習性が見られる。この習性をこの仔は、
「竹千代」にのみ、求めた。また、「竹千
代」は、自分に寄って来る全てのネコを受
け入れた。

 しかし、孤高の「ひとみ」は、人間に対
しては甘えっ仔であった。時折見せる、こ
の仔の嬌態は、他の仔達にはない可愛らし
さ、と私には思えた。そして、何かを欲し
い時の芸当にも似た仕草は、筆舌に尽くせ
ぬ愛らしさを見せてくれた。ある夜、その
愛らしさを笑って拒絶してしまった事があ
った。・・その夜は、夕食にすきやきをし
ていた。生肉の好きな「ひとみ」は人の傍
によって来ては、肉の切れ端を貰っていた。
あまりよって来るので面倒になった我々は、
肉の供給を拒否した。「ひとみ」は何を思
ったのか少し離れた板の間に移り、床の上
にコロンと横になると、まるで踊っている



ひとみ




ひとみ


  かと思えるような仕草を見せたのであっ
た。この嬌態を見た我々は、皆で笑ったの
だった。この人間達の、この仔を馬鹿にし
たような態度を見て、「ひとみ」はその場
から立ち去った。そしてその夜は、肉をあ
げるからおいでと呼んでも、決して来よう
とはしなかった。以後、嬌態を見せて、物
をねだる事はしなくなったし、馬鹿にされ
たと思ったのか、踊る仕草をする事は2度
となかった。プライドを傷つけて、可哀相
な事をしたと、今でも思う。
この仔の死は、多くの謎に包まれている。
ある日、足を引きずって歩く姿を目撃した。
その日はたまたま、母親が遊びに来て居た

為、この仔の異常に気づいてはいたのだが、
明日伸ばしにして、獣医に連れて行かなか
った。しかし、これがいけなかった。
日頃、家を空けたことの無い仔がその日の
夜から1週間帰ってこなかった。1週間目
の朝7時、居間で鼻血を流しながら私に助
けを求める「ひとみ」を見つけた。直ちに
獣医の下へ車を走らせた。何らかの注射を
打ってもらい、帰宅したが危ない状態だっ
た。私はスタジオに出勤したが、出掛けに
あげたアイスクリームが、この仔の最後の
食べ物になった。詳しい死因は判らない、
謎に満ちた死別であった。
我々から1週間身を隠し、自分なりに死因
と戦い、最後に助けを求めてきた「ひとみ」
の瞳を、今でもはっきり思い出す。



竹千代とひとみ




竹千代とひとみ


         プロフィール

   生年月日:平成3年10月1日       
   名 前:ひとみ(♀)
   愛 称:メンメちゃん
   出生地:東京都練馬区某所
   好 物:チーズ、肉、アイスクリーム
   嫌 物:他のネコ
   性 格:自尊心が高い、人に従順
   特 技:踊り、ぶりっ子、ジャンプ
   持 病:無し
   怪我歴:無し
   体 重:3.5Kg(ピーク時)
   享 年:6歳4ヶ月と20日
  
第4話へ続く