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![]() さくら |
「竹千代」が我が家に同居するようにな ってから、約1年が過ぎた、まだ肌寒い梅 雨の夜だった。JR松戸駅にほど近い神社 の前を、パートナーの三浦と通り掛った時、 彼女が突然「ネコだ!」と言った。 立ち止まって耳を澄ませると、確かに猫の 鳴き声が聞こえた。親を呼ぶ時の、あの甲 高い悲しそうな鳴き声が聞こえた。早速、 2人の猫捜索隊が活動を開始した。石の裏 側、木の根っ子、縁の下・・見つからない。 声の聞こえた方に行くと、鳴き止んでしま うのだ。しばらく動きを止めて、息を凝ら していると、か細い声が聞こえる。 | |
それっとばかりに、捜索を再開する。梅 雨寒のシトシト雨の中での事であった。 同居猫第二号の身柄確保は、難航を極めた が、どうにか保護に成功した。急遽、我が 家に直行し、ミルクと食事を与えたが、ミ ルクは飲まず、煮干をバリバリ食べた。こ の時、この仔は生きると確信した。 続いての作業は、真っ黒に汚れた体を洗う ことであった。ペット用シャンプーをぬる ま湯で薄め、体を洗い出して驚いた。お湯 が見る見るうちに赤く染まっていくのであ る。此れはいかなる事か。体のどこかに傷 口でもあって、出血しているのだろうか。 |
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直ちに、入念なボディーチェックを開始 した。しかし、どこにも怪我らしい痕跡は 見つからなかった。代わりに、大量のノミ のフンを発見するに到った。離乳してまも ない、体重1Kgに満たない小さな体に、 100匹は優に越すノミの大群が、所狭し と群がっていたのだ。小さな体の血を吸っ て、排出されたフンがお湯に溶け出した色 だったのだ。「にっくきノミども、ゆるさ ん」とばかり、ノミとりシャンプーを塗っ たくり、ちぎっては捨て、むしっては捨て 腰が痛くなるまで頑張ったが、捕り切れな かった。戦いは、丸3日に及んだ。 | |
この仔は女の子であり、大変綺麗な肉球 をしていたので、「さくら」と命名した。 「さくら」は大変臆病な仔であった。先住 していた「竹千代」の大胆さに比べると、 かわいそうな位、人に怯えた。野良猫とし て生きてきた、わずか2ヶ月あまりの間、 よほど恐いめに会って来たのだろう。知ら ない人を見ると兎に角、隠れたがった。玄 関に人の気配を感じるや否や、何者だとば かりに飛んでいく「竹千代」とは対照的に、 すぐ物陰に隠れた。たまに来客などがあっ た時など、何処にどう身を隠すのか、誠に 巧みな技を使い、その人が帰るまで決して 現れない徹底ぶりであった。 |
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「さくら」の「竹千代」及ぼした影響は 大いに歓迎するものであった。それまで、 自分を人間とばかり思い込んでいた「竹千 代」に、ネコとしての本分を教えてくれた ことである。「竹千代」は我が仔のように 「さくら」を慈しみ、「さくら」は実の父 親のように「竹千代」を慕った。「さくら」 に危害を加えそうだと判断した「竹千代」 はその人間を容赦なく威嚇した。それを見 守る我々は、「竹千代」の攻撃から人間を 守る事に、神経を使わされたほどであった。 「竹千代」が逝った後、めっきり元気の無 くなった「さくら」はほぼ1年後、後を追 う様に、老衰で他界した。 | |
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